遊技機スペックのトレンド予想
「デカヘソ」はパチンコの新トレンドになりうるか?
文=鈴木政博(遊技産業研究所代表取締役・遊技日本発行人)/ text by Suzuki Masahiro
ついにスマッシュヒットとなった「回るパチンコ」
2024年7月に導入された藤商事「P貞子」に続き、8月導入のSANKYO「eF機動戦士ガンダムユニコーン再来-白き一角獣と黒き獅子-」がファンに支持され高評価を得た。特にユニコーンに関しては、発売前より「P機の方がいいだろう」「e機はスペックがダメだ」との前評判が目立ち、実際に販売台数でもP機が勝る結果となった。ところが蓋を開けてみると、業界内の予想を覆し「eユニコーン」が高評価を得たのはご承知の通りだ。
eユニコーンの「超デカSTART」
この2機種に共通した特徴は「ヘソサイズ2倍BIGスタート」「超デカSTART」と名付けられた「ブン回せるヘソ」が搭載されている点だ。過去にもいわゆる「回せる台」は数機種発売されてきた。古くは高尾「CRBRAVE10」「CRダークフォース」や、以降P機となってからもサンセイR&D「P牙狼コレクション」「P笑点」「P牙狼MUSEUM」などが発売されたものの、市場から大きく支持されることはなかった。ではなぜこの2機種が今、支持されたのか?
「P貞子」「eユニコーン」が支持された理由とは?
支持された最も大きな要因は「ラッキートリガー」だろう。過去の「回せる台」は、設計値として回すため出玉を減らす調整がなされたものが多かった。いくら回っても「出ない」というイメージを持たれると稼働は見込めない。一方、この2機種は共に「ラッキートリガー搭載機」であるため、とにかく一度LTにさえ入れば総獲得期待値は12,000発前後と大きな出玉に期待できる。この「回せる台」と「ラッキートリガー」の相性の良さが功を奏した結果だと考えられる。
2つめは「現ホールの状況」だ。傾向として、「パチスロ強・パチンコ弱」にあるといえるだろう。パチスロに設定を入れて集客し、パチンコで利益回収する方針にある、と伺えるような“体感”の店舗は実に多い。パチンコは「1,000円で12回程度しか回らない」のが当たり前の状況で、ファンからは「とにかく回らん」とか「打ってられん」という不満を頻繁に聞くようになった。この2機種を実際に打ってみると、明らかな違いを体感できるが、例を挙げると「ボーダー16回で12回まわる台」と「ボーダー32回で24回まわる台」であれば、明らかに「24回まわる台」の方がストレスなく打てるのは想像に難しくないだろう。
3つめは単純に「デカヘソ」という、視覚的にも「分かりやすい」点だ。過去に発売された「回るパチンコ」は電チューを開放しやすくしたり、通常時からスルーを回したり、またはクルーンを使うなど仕様に若干無理のあるものが多かった。一方「デカヘソ」は一目瞭然で、次々とヘソに飛び込む。ただし、これを実現するには「演出」や「変動秒数」の改善が必須で、それが可能となった市場の変化が、残り2つの理由としてあげられる。
P貞子の「ヘソサイズ2倍BIGスタート」
そして、4つめの理由が「好まれる演出傾向の変化」だ。昨今のパチンコは「カスタム全盛」であり、「先バレ」や「レバブル」などで「当たりそうになったら教えて。それまでスマホ見てるよ」というユーザーがかなり増えた印象がある。既存の台より倍程度の回転数を回すには、通常時の大半は「短い変動」、つまり何も起こらない変動にせざるを得ない。この演出傾向のトレンドが、現在の市場とマッチしたのではないだろうか。
最後に5つめは「時間効率」だ。最近の若年層は「タイパ(タイムパフォーマンス)」を気にかける人が多い。つまり「一定時間あたりに何が行えるか」だが、パチンコは元来が「時間消費型レジャー」であり、無駄となる時間帯が非常に目立つつくりだ。しかし、昨今では「当たらないリーチはいらない」「当たりそうもないのに疑似連とか時間のムダ」という意見もよく耳にするようになった。
同じ打つなら「1時間に250回まわる台」よりも「1時間に400~500回まわる台」の方が、同一確率であれば1時間で大当たりする可能性は高い。結果として平均変動秒数が短くなることから「タイパが良い」という感想となる。その意味で若年層の思考ともマッチングが良かったと言えるだろう。
「デカヘソ」搭載機の未来と新たなトレンド
この2機種のヒットにより各社も追従して「デカヘソ」の開発に着手しているが、今後どのような仕様の機種が出てくるのか。
1つはLTと「ライトミドル」帯との相性の良さ。デカヘソ仕様でイメージするなら、例えば1/99.9の甘デジ「P北斗の拳強敵LT」を、デカヘソにし、通常時の演出を大幅に削減したうえで1/199.8とする。1,000円ボーダーは33回程度となるため、十分に25~26回以上は回せる台となり、ライトミドルでありながら1時間に2~3回は大当たりが発生する非常にタイパの良い性能となる。
次に「遊タイム」との相性の良さだ。「遊タイムまで950回」と言われても、過去のミドルでは到達するのに4時間程度が必要で、その点で遊タイム搭載機は甘デジ以外では敬遠される傾向にある。しかし1時間に400~500回まわるなら、遊タイムも活きてくる。例えば1/319で遊タイム950回の台であれば、1時間程度500回まわして当たらなくても、継続遊技する意欲が湧いてくるはずだ。
最後に演出面での変化だ。通常時にサクサク変動して大半がハズレなら、通常時演出を重視する必要は弱い。場合によっては昔あった「CR力道山」のように「図柄変動」自体さえ不要かもしれない。“通常時はスマホを見ている”のは見慣れた風景で、「大当たりする可能性のある変動時のみカットイン発生でSPリーチとなる」といった演出仕様の台さえ出てくるかもしれない。
「デカヘソ」は、回らないと不満が噴出する“パチンコの救世主”となりうるのか。今後の各メーカーの開発努力に大いに期待したい。
鈴木政博
㈱遊技産業研究所代表取締役。大学卒業後にホール経営企業管理部、遊技コンサル会社を経て現在に至る。遊技機開発アドバイザーとして活動しながら2021年7月より業界誌「遊技日本」発行人を兼務。
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