経営者インタビュー

常識を覆す経営戦略 1パチ特化への挑戦/株式会社USEI 朝川康誠氏

ホール経営トップの経営者魂
常識を覆す経営戦略 1パチ特化への挑戦

株式会社USEI
代表取締役社長 朝川康誠
本記事は『Amusement Business Answers』(2025 WINTER Vo.1 No.1)に掲載中です。
1984年に創業し、1995年に法人化 したUSEI(埼玉県入間市)は、「ゴー プラ」の屋号で埼玉県を中心に10店 舗(2024年10月時点)のパチンコ ホールを展開する。

株式会社USEIとは

USEIは2008年に低貸玉営業を本格展開して以来、業界の常識を覆す「1円パチンコ専門店」という独自の経営モデルで成長を続け、遊技人口が減少傾向にある中で年間平均客数を164%まで伸ばすという快挙を達成。全国6,600店舗の中で、稼働ランキングトップ50に3店舗がランクインし、埼玉県内では、トップ10に5店舗がランクイン。特に低貸営業専門店としてはゴープラ入間店が7年連続で全国1位の稼働率を維持している。

2年に1店舗というペースで着実な成長を遂げる同社は、現在10店舗、従業員数380人。総資産の53.06%が現預金という高い比率を維持する実質的な無借金経営だ。2015年には不動産事業へも参入した。

遡ること、朝川康誠氏が入社した2002年当時の状況は、ゴープラ入間店の1日の来店客数はわずか8人。全国平均の3分の1から4分の1以下という稼働率は、企業としての存続すら危ぶまれる水準だった。2008年の社長就任から、パチンコ業界の常識を覆し、1円パチンコ専門店という新たな挑戦へ。その道のりを朝川康誠社長に伺った。〔文中敬称略〕

【数字で見るUSEI】

総資産に占める現金比率は53.06%と、負債比率29.50%を大きく上回る水準を維持しています。手元資金により、企業活動に伴う負債を全てキャッシュ・フローで賄える財務構造を確立。取引先への支払いも現金決済を原則とし、堅実かつ健全な経営基盤を構築しています。

当社の総遊技台数は過去12年間で3.89倍に拡大。注目すべきは、業界上位3社(M社、D社、G社)の同期間における拡大率が1.17倍という実績の中で、当社が約4倍近い拡大を達成したという点です。業界リーディングカンパニーと比較しても、圧倒的な成長スピードを実現しています。

企業存続の危機から始まった 再建への道

―入社当時の状況についてお聞かせください。
朝川 入社した2002年当時、当社は3店舗を展開していましたが、業界全体が大手企業を中心に労働条件や待遇面を改善し、生業家業から脱却してビジネスとして成長している最中にあって、当社はドラマに出てくる典型的な時代遅れのパチンコ店のような状態でした。主力店舗のゴープラ入間店ですら1日の来店客数はわずか8人という、会社の存続自体が危ぶまれる状況でした。この状況を変えるために、まず、働かない役員陣には退場していただきました。しかし、外部から人材を採用することは難しかったので、全従業員との面談を通じて、やる気はあるものの埋もれていた人材を発掘し、重要なポジションに登用していきました。当時の稼働率は全国平均の3分の1から4分の1以下。とてもではありませんが、好転は望めない状況でした。もちろん、劇的な改善は望めず、地道な改善を重ねていく必要がありました。

―1円パチンコ専門店への転換を決断された背景を教えてください。
朝川 後発として、大手がひしめく4円パチンコの土俵では戦えないと考えました。また、30年以上にわたり可処分所得が減少している日本において、高価格な4円パチンコだけを提供し続けることは、パチンコ産業の持続可能性の観点からも疑問がありました。他社の1円パチンココーナーを視察すると、非常に盛り上がっていました。パチンコ自体の人気がないわけではなく、価格的な障壁で遊べない層が多いのではないかという仮説を立てました。そこで、単なる4円パチンコの一角に1円コーナーを設けるのではなく、1円パチンコ専門店として展開することで、より多くのユーザーを惹きつけられると考えたのです。

―この決断に対して、社内外からの反応はいかがでしたか?
朝川 大きな反対意見がありました。特に印象的だったのは、先代会長が「ありえない」と言って、しばらく出社しなくなったことです。4円パチンコをベースに成り立っているビジネスモデルにおいて、貸玉料金を4分の1にしても、人件費や設備費などのコストは4分の1にはなりません。多くの関係者から心配の声が上がりました。私自身、2008年の社長就任時に「3年で出店できなかったら退任する」と約束していましたが、そこから1円パチンコへの転換を決めたことで、さらに経営再建の難易度が上がることは認識していました。

【改革の軌跡】特に注目したのは、遊技台の調達と運用という根幹部分だ。業界の常識であった「新台至上主義」から脱却を図った。実績のある人気機種を大切に使い続けるという、新たな運営方針を打ち出したのである。そして、社長就任から2年後の2010年にゴープラ新所沢店を新規出店した。

1パチ専門店としての誇り 働く人にも選択肢を

―4円パチンコと1円パチンコの関係性をどのようにお考えですか?
朝川 4円パチンコと1円パチンコは、互いに補完し合える関係にあると考えています。4円パチンコには4円パチンコならではの特別な興奮や楽しさがあり、その価値は今後も揺るぎません。関係性を飲食業界に例えると、4円パチンコは高級フレンチレストランのような存在です。最高級の体験を提供できる一方で、おのずと客層が限定されてしまいます。対して1円パチンコは、カジュアルレストランに相当します。より手頃な価格で提供することで、より広い層のお客様に楽しんでいただく。これは、パチンコ産業全体の未来にとって重要な選択だと確信しています。高価格帯だけでは体験できるお客様が限られ、「パチンコは必ずしも必要のない娯楽」として捉えられかねません。より多くの方にパチンコを体験していただき、その魅力を知っていただくことが、産業全体の持続的な成長につながると考えています。当社はその部分に集中すると決めたのです。

―1円パチンコ専門店として、どのような想いで働いているのでしょうか?
朝川 1円パチンコというビジネスを通じて、より多くの人にパチンコの魅力を伝えたいという使命感で、社員も私も仕事に取り組んでいます。実際、4円パチンコ中心の大手から転職してくる方も多く、「USEIが4円パチンコ店だったら来ていなかった」という声をよく聞きます。給与や待遇だけでなく、1円パチンコを通じて新しい価値を創造したいと集まってくれた仲間たちです。

―パチンコ業界における人材採用について、どのようなお考えをお持ちですか?
朝川 パチンコ業界に失望感を抱きながらも、パチンコ自体は好きだという矛盾した思いを持つ人材は少なくありません。しかし、その多くは業界そのものが嫌いなわけではなく、従来の営業スタイルに違和感を持っているだけなのです。4円パチンコが良くて1円パチンコが悪い、あるいはその逆というわけではありません。「違う提供の仕方をしている私たちの店を、まずは覗いてみませんか」と声をかけられると考えています。この業界で働く方々に、より多様な選択肢があることが重要なのです。選択肢を増やすことで、業界全体の人材の流動性も高まり、結果としてパチンコ産業全体の発展につながっていくはずです。

変化に対応し続ける企業へ 大きさではない、価値の追求

―小売業を中心に海外視察を熱心に実施されていますが、海外から学んだ知見を経営に取り入れた例を教えていただけますか?
朝川 10年かけて形にしてきたものがいくつかあります。その一つが、私たちの【OurPolicy】です。『ゴープラは、常に正しいわけではありません』『お客様も、常に正しいわけではありません』『その違いがあるからこそ、お客様とゴープラにハーモニーが生まれるのです』。「お客様は正しくない」という言葉は、ニューヨークの「EATALY」で出会った理念がきっかけでした。パチンコホールでこの表現を使うことに当初は躊躇がありましたが、1年半から2年ほどの議論を経て全店舗での掲示を決めました。この背景には、業界の慣習を見直す意図がありました。従来、4円パチンコの客単価の高いお客様の要望は、売上に直結するため過度な要求でも受け入れがちでした。しかし1円パチンコ専門店として、「ルールを守れない方には退店いただく」という毅然とした姿勢を選択したのです。このような考え方の背景には、アメリカ企業から学んだ従業員とお客さまを守る姿勢があります。アメリカは徹底した資本主義の国というイメージがありますが、実は思った以上にウェットな部分もあるのです。経営において冷静な評価や仕組みは不可欠です。しかし、その前の段階で、些細な行き違いは丁寧に耳を傾けながら改善を促していく。このバランスを保つことで、多くの課題が解決できるのです。

【Our Policy】1. ゴープラは、常に正しいわけではありません。
2. お客様も、常に正しいわけではありません。
3. その違いがあるからこそ、お客様とゴープラにハーモニーが生まれるのです。

―ゴープラはどのような存在を目指しているのでしょうか?
朝川 「あってほしいお店」であり続けること。それが最も重要だと考えています。30年後を予測することは難しいですが、その時々で社会に必要とされる価値を提供し続ける努力は欠かせません。アメリカでの視察で学んだように、企業の価値は規模の大小ではなく、どんな価値を顧客に届けているかで決まります。たとえば、ウォルマートは世界最大のチェーンストアですが、働きたい企業ランキングのトップ100にもなかなか入れない一方で、わずか12店舗の地域密着型スーパーマーケットの中にも常にトップ20に入るような企業があります。さらに興味深い発見がありました。大手企業の真似をして、二番手、三番手を目指す企業の多くは次々と姿を消していったのです。

―”独自性”とはさまざまです。何か共通点はあるのでしょうか?
朝川 全く異なるアプローチで独自の道を歩む企業が成長を続けていたのです。共通するのは、強烈な経営哲学と、それを顧客に届けようとする強い意志でした。そして、そういった企業は地域から根強い支持を集めていたのです。つまり、企業の価値を決めるのは規模の大小ではありません。その企業が何を考え、どんなサービスや商品を地域の顧客に届けようとしているのか。その理念と実践こそが、企業の真の評価を決めるのだと気づかされました。即ち、スケール(規模)の経済からスコープ(範囲)の経済に移り変わっているのです。

―その発見が、経営にどのような影響を与えましたか?
朝川 資本主義の総本山とも言えるアメリカで、このような多様性が認められているという事実は、私にとって大きな発見でした。1円パチンコという低価格ビジネスを、たとえスピードが遅くとも、地道な努力をしてお客様に真の価値を届けられる事業として育てていく。その覚悟を決めるきっかけとなったのです。

―今後のビジョンについてお聞かせください。
朝川 世の中のためになる「わくわくするリスク」は積極的に取っていきたいと考えています。1円パチンコへの転換も大きなリスクでしたが、それによって業界内での知名度も上がり、新たな価値を生み出すことができました。これからも、社会に必要とされる企業であり続けるため、果敢にチャレンジを続けていきます。

株式会社USEI
本社:埼玉県入間市上藤沢741-3
WEB:www.usei.jp/
問い合わせ先:https://www.usei.jp/careers/career.html

 

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