ホール経営トップの経営者魂
突き進む 5カ年売上倍増計画
代表取締役社長 東野昌一
創業から10年で得た気付き
1989年の創業当時は、1号店で足元を固め、2店舗目、3店舗目と出店することができました。地域に必要とされる存在、貢献できる存在に、という想いと理想をよりイメージできるようにもなりましたが、同時に、危機感も強まっていきます。
大手パチンコチェーンの出店ペースは凄まじく、全国規模で展開していく様子から、私たちの商圏にも進出してくるであろうことは容易に想像できました。資本力の差は歴然で、単純な力勝負、物量で太刀打ちできるはずもない。いかにすれば存続できるようになるのか。“勝つ”よりも、“負けない”ための方針・戦略が求められたのです。
例えば、大手流通企業との提携もそのひとつで、ショッピングセンターへの出店を実現させましたが、創業から10年の節目である1998年、「K’sアミスタギャラリエアピタ知立店」を出店する頃には、流通業界から多くを学び、知見を深めることができました。パチンコ業界も流通業界と同じように、2極化とM&Aによる淘汰は避けられないのではないか。では、“生き残る会社”とは、どのような組織なのか。そう考えた時に、これまでのような家業型から企業型へ、ピラミッド型組織から逆ピラミッド型組織へ生まれ変わらなければならないと強く思うようになったのです。
働く従業員たちに対して何をすべきか、どういった環境を整備すれば彼らが活躍できるのかを、真剣に考えるようになりました。単なる事業の拡大ではなく、人を中心とした経営を実践していくことの重要性、『企業は人なり』なのだと。この考え方は、現在の経営理念の根幹となっています。
家業型から企業型への改革
生存競争から、持続可能な経営基盤の構築へと発展させていくためにも“マンパワー”が必要不可欠であるということを十分に理解し、「理念形成」と「理念浸透」という大きな課題に向き合っていきました。
世の中には、理念や社訓を掲げているだけになってしまった組織があります。朝礼で唱和はしているけれど、なぜそれを唱和しているのか説明できない。新入社員やアルバイトが入社された際に伝えられない。いずれ、判断基準はばらつき、迷いが生じ、一体感が生まれず、社内外から信頼を失ってしまう。このようになってはいけない。
経営理念である「平成イズム」を創るにあたっては、“理念を掲げるだけ”とならないために、まず、営業本部を開設し、現場が主体となって提案できる環境をつくりました。お客様、従業員、地域にとって“どのような存在”であるべきか、そして、実現・継続させるため“どのような行動”をとるべきか、現場を含めたチームのみんなで考え、話し、意見をぶつけ合い、ひとつずつ明確にしていったのです。私たち経営陣がトップダウンで決めるのではなく、時間はかかりますが、ボトムアップで会社の核となる理念を策定する。会社は“オーナーのもの”ではなく、“従業員のもの”という意識づけ。そうして、現在の平成イズムがあるのです。
事業規模、組織を大きくしていく過程では、様々な価値観をもった人が増えていくわけですが、『イズムを自分が作った』かのように、言動や行動に表すことができる人材を育むことが大切です。その土壌として、社員大会、表彰制度、社内行事など、すべてイズムに紐づけて創り上げることで、体現して、想いを伝えられる『伝道師』を増やすことに成功しました。そして、“伝道師が新たな伝道師”を育み、より一体感が醸成されるようになったのです。
“学園祭のノリ”で仕事を楽しむ文化へ
ホール店舗や本部、それぞれで担う業務や責任範囲は異なりますが、仕事をどう感じているのか。このことについては、すごく意識した部分でもあります。もちろん個人差はあるのでしょうが、「仕事」と思うとハードルができてしまい、新しい事や未体験のことは、一層距離を置いてチャレンジしなくなる。これでは個人も組織の成長にも繋がらなくなってしまう。人生の時間の大半は仕事であり、職場で過ごすわけです。そして、私たちの仕事はお客様に楽しんでいただくことですが、自身が楽しくないのに、お客様に提供できるはずもありません。だからこそ、仕事に楽しく取り組みながら、成長を目指せる工夫をいたるところに散りばめています。しかし、この“楽しみながら成長しよう”、という部分が、数年前のコロナ禍の時期に一度失われかけてしまって、改めてその重要性を強く感じていました。
人材育成は、私の経験上、子供の教育と同じだと考えていて、親が口酸っぱく「勉強しろ」と言っても、勉強する子は稀だと思っています。勉強はつらい、楽しくない、と思われてしまって、悩まれる。ただ、はじめから「そのように思っていた」わけではなく、意味がわからないということから、苦手意識が強まって、より避けるようになることがほとんどではないでしょうか。しかし、自分の周りを見て、友達に聞いたり、一緒に勉強をして、今まで出来なかったことが、少し出来るようになると、楽しくなって、“ここまでやってみよう”と積極的になったりするものです。
会社も同じで、「もっと仕事をしろ」と言ったところで、成長を目指す社員はいません。取り巻く環境、雰囲気が“楽し気”で、失敗しても次に活かせる土台があれば、自然とその流れに乗れるものです。どうやったら“やる気スイッチ”が入って前に進むか、その後押しをどうできるか、が上司の役目だと思っていて、そういった考えができる組織、集合体にしたいと常々考えています。
社会経済の変化“多角経営”への挑戦
2023年10月の中期経営計画で発表をしましたが、基幹であるパチンコ事業で、5年後に売上1,400億円を目指しています。2023年3月期の売上高が723億円でしたから、倍増させるということです。投資計画には、人材も含まれていますが、「従業員の給与を業界最高水準に引き上げる」と宣言し、早々に反映させました。物価高や実質賃金マイナスなど、社会経済の影響は、働く従業員のモチベーションに関わりますし、採用を実施していくうえでも、給与待遇はポイントになるからです。現在、私たちは中途採用を積極的に行っていますが、これは、今後の事業展開を見据えてのこと。社内に健全な競争環境を作り、成長を促進させる。個人と組織の生産性を高めていきます。特に内部管理体制の強化を重視しており、そのために金融機関などから外部人材の採用も積極的に進めています。
事業の規模感をお話しすると、例えば、パチンコ店を1,000台規模で出店する場合、約50億円の投資が必要です。新規事業を展開する場合でも、このような規模感でバランスの取れる事業展開を視野に入れ、準備を着実に進めているところです。今後、3年以内の実現を目指していますが、早い段階での展開も検討しています。内部人材と外部人材の融合によって、新しい発想や考え方を生み出していけると考えていますが、お互いの良さを活かし合える環境づくりが、成長への近道だと確信しているのです。
様々な業界で淘汰が進んでいますが、生き残るためには市場規模を拡大していくか、全撤退するか、二者択一になっており、“現状のまま”で生き残れるのは、よほど特別な立地や条件で営業している場合くらいです。
パチンコホールが売っている商品は全部同じですから、その中で差別化を図るのは、なかなかに難しい。それをやっていこうと思うと、やはり規模という要素が重要になってきます。また、コロナ禍のような予想もできない、避けようのない事態などから、休業要請が来た場合、収入がゼロになってしまいます。これを受けて、別の事業も必要だという学びとなりました。ただし、飲食やマッサージ店など、小規模な多角化では意味がありません。パチンコ店と同等の規模で事業展開しながら、その会社ごと買収するならわかります。あの経験から本当に大きな教訓を得ました。休業中の銀行への支払い、地主さんへの支払い、機械代、そして一番大事な従業員の給料をどう払うのか。これらを払い続けられる体制を整えておく必要性を、身にしみて感じました。私たちの場合、賃貸事業と航空機リース事業があったおかげで、給料を払う分には全く問題ありませんでしたが、この経験は事業多角化の重要性を改めて認識する機会となりました。
創業時からの恒久的ビジョン
私が、業界の大きな課題と感じていることに、パチンコの貸玉料4円(パチスロ20円)が何十年も続いているという状況があります。物価がこれだけ上がっていて、遊技機価格は60何万にもなっているのにホールは値上げをできない。そのうえ、消費税10%を払いながらの営業ですから、利益率にも大きな影響が出てきます。
これは業界全体として取り組むべきことのはずです。昔、協同組合(全日遊連)ができた理由は、自分たちが生き残るために、やるべきことをやらないと大変なことが起きるからでした。例えば、ホテル業界では、組合で決めたことを“みんなが守る”から“みんなが潤う”。でも、組合に入らないところが出てくると、そういった取り決めが守れなくなって、小さい企業からどんどんと潰れてしまう。私たちの業界でも同じことが起きているのです。
とはいえ、何十年と足並みが揃っていないわけですから、そう簡単なことではありません。私たちは、私たちで、出来ることからコツコツとやっていくしかないのです。
平成イズムに『安心』を掲げていますが、これは、平成観光創業時の“私の決意”、“核となる想い”でもあって、三つの意図があります。ひとつは“お客様に安心してご来店いただく”こと。ひとつは“働く社員とその家族が安心して生活できる環境”を築くこと。ひとつは、地域社会に『平成観光があってよかったね』と“安心していただける存在”になることです。例えば、市役所が何かを頼もうというときに、まずは私たちに電話して『手伝ってほしい』と言ってもらえるような、そんな、必要とされる存在でありたいと考えています。お客様が日頃の疲れを癒す娯楽の場となる。十分な報酬と福利厚生で従業員に還元する。適正な納税を行うことで恩返しをする。地域に根ざした、信頼される企業であることが、私たちの目指す姿なのです。
業界で働く仲間たちへの想い
パチンコ業界は、見方によって様々な捉え方があると思います。ただ、私から言えるのは、この業界には面白さがあり、夢があり、まだまだ大きな可能性があるということです。
単に枠の中で決められたことだけをしようと思えば、確かに、公務員のような仕事の方が向いているかもしれません。でも、この業界の中で自分が何を発想して、どう変えていけるのか、そういう視点で見ると、全く違う景色が見えてくるはずです。全く違うステージで定年を迎えられるような可能性もあります。実際に、そういった道を歩んできた方々を、周りでたくさん見てきました。これからは経営と資本の分離がどんどん進んでいくでしょう。
アミューズメント、レジャー、その他の業態も含めて、見聞を広げることは重要だと考えています。自分の家から数キロ圏内しか動かない場合と、様々な場所を見て回る場合では、得られる経験値が全く違います。同じものをネットやテレビで見るのと、実際に足を運んで体験するのでは、視野の広がり方も全く異なってくるのです。自分の立っている位置を、一歩でも上の階段に上がってほしい、世界観を広げて欲しいという想いです。
例えば、私たちの会社でいえば、次の社長は“東野”という苗字ではない人かもしれません。それだけ可能性に満ちているということです。自分の力で何かを変えていきたい、新しいことにチャレンジしたいという方々にとって、大きなチャンスがあると確信しています。
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