2024年の株式市場はアナリストの予想通りだった
結局のところ、新NISAを始めるべきだったのか?
文=田中 剛(パック・エックス)/ text by Tanaka Tsuyoshi
2024年の大きなできごとを政治、経済のできごとにフォーカスして振り返ると、「新しいNISA制度スタート」(1月)、「ロシア大統領選でプーチン氏圧勝」(3月)、「日経平均株価初の4万2千円台」(7月)、「日経平均株価大暴落」(8月)、「自民党新総裁に石破氏」(9月)、「米大統領選でトランプが勝利」(11月)といったことが挙げられる。
厚生労働省の毎月勤労統計によると、2024年1月から9月の間、実質賃金が前年同月を超えたのは6月、7月の2回のみ。物価上昇の伸びに賃金の伸びが追い付いていないのだ。
物価上昇は、実質賃金の伸びを抑えているだけではなく、現預金の価値を目減りさせる。ホール店長の平均年齢は40代前後で、子どもがいるとすると、「まだまだ養育費、新学費にお金がかかる」という方が大半だろう。「投資は怖い」「投資はよくわからない」と、資産形成の多くを定期預金で持っている場合、それは「円に投資している」ことと同義だと知っていただきたい。1年間の物価上昇率が2.5%だった場合、1年前の100万円の預金の現在の価値は、実質的には97万5千円に減ったことになる。将来受け取る額が決まっている学資保険でも個人年金でも、同様に円の価値の目減りが起こる。
では、政府の勧めにしたがって「貯蓄から投資へ」とシフトして、2023年暮れから2024年初頭にかけてメディアがこぞってとりあげた「新しいNISA」を始めていたらどうなっていたのか?
まず、2023年末にアナリストなど専門家は2024年の経済をどう予想していたかを振り返ると、多くのアナリストが、アメリカについても日本についても「株価は上昇する」と予想していた。この予想通り日経平均株価は年明けから急上昇し3月には4万円台に乗り、7月には初の4万2千円台に達した。
株価大暴落で「投資は怖い」が現実に
ところが8月5日に日経平均株価の記録的な大暴落が起こった。これは多くの投資1年生に強烈な洗礼となり、怖くなってNISAを解約(売却)した人もいたはずだ。それもそのはずで、この株価大暴落は世界同時的なものであり、ダウ工業平均、ナスダック指数、ヨーロッパの主要株価指数であるユーロストック50も急落した。そのため、非常に人気の高い投資信託銘柄である、通称「オルカン」(全世界の株式に分散投資できるインデックスファンド「eMAXISSlim全世界株式」の略称)の評価額が急落したからだ。
かねてより「米国経済はバブル。2024年には崩壊する」と警鐘を鳴らしていた著名アナリストの、「いますぐNISAを解約すべき」という提言がにわかに注目を集めた。また、ある芸能人が年初にSNSに投稿した、「NISAは国が推してるから裏がある」も再び注目された。
では、その後、「オルカン」はどうなったのか?投資信託の1口あたりの値段(時価)である基準価格は、暴落の2週間後には暴落前日の水準にまで回復し、本原稿執筆時点である11月中旬には年初比128%であり、年初来最高値に迫る水準になっている。もしも年初に定期預金を解約して、新NISAの「成長投資枠」の限度である240万円をオルカン購入に充てていたら307万円になっていたという計算だ。ナスダック指数もほぼ同様の推移。ダウ工業平均は暴落の10日後には回復しており、3週間後には年初来高値を更新し、11月11日には終値として初めて4万4千ドル台をつけ最高値を更新した。
本誌58頁で指摘されているように、日本の家計の金融資産に占める「株式・投信」の構成比はアメリカの3分の1以下だ。賃金は上がらなくとも、株や投資信託の形で資産を持っていれば、このブルマーケットの恩恵にあずかれたことになる。あくまでも現時点での話だが、政府が推す「貯蓄から投資へ」は正解だったようだ。
パック・エックスメディアチーム所属のエディター。市場調査会社を経て遊技業界専門誌の編集者へ。日本FP協会AFP、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
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